【知ってお得④】世界を変えたアリババ創業者ジャック・マーとは?

 

中国のニュースで、独身の日(11月11日)と聞いて、アリババを知った人は多いのではないでしょうか。

今や「中国版アマゾン」とも言われるほど、巨大な会社(企業)に成長したアリババ。

その創業者はジャック・マー。

しかし、彼の優れた経営哲学を知る人は少ないかもしれません。

この記事では、アリババの創業者であるジャック・マーについてお伝えします。

 

 

ジャック・マーってどんな人?

 

ジャック・マー(馬雲)は、中国の起業家で、アリババグループの創業者(元CEO・元会長)です。

 

知名度

2016年から2018年にかけてアジアで1番の富豪となり、所有株は25兆円を超えると言われます。

中国の起業家で初めてフォーブス誌に名前が掲載された人物でもあります。

 

幼少期~高校生

ジャック・マーは、1964年浙江省杭州市生まれで、両親は伝統芸能の関係者なのだそうです。

幼少の頃はナイーブで自尊心が強く、ひ弱な身体で誰かにいじめられたらすぐにやり返し、たとえ劣勢に立たされようと決してひるまない気骨のある子供でした。

中学時代に地理教師の影響を受け、小さい頃から英語を学ぼうと、ラジオを購入。

毎日英語の放送を聞き、外国人の多い西湖のほとりに出かけて行っては英会話の練習を繰り返しました。

中学時代には、自転車に外国人観光客を乗せて、杭州の街を案内できるほどのレベルに達しました。

また、外国人との交流を通して、異なる世界観や人生観に触れる機会にも恵まれました。

一方、学生時代の数学の成績は悪く、二度大学受験に失敗しました。

一度目の受験失敗で、アルバイトで生計を立てていくことを考えました。

18歳に父親の紹介により雑誌社で本の運送を始めました。

その後、路遥の小説「人生」に出会い、主人公の高加林が粘り強く理想を追い求める姿に感動し、再び大学進学を志しました。

しかし、二度目の受験も数学が足を引っ張り不合格となりました。

当時人気の日本のテレビドラマ「燃えろアタック」の主人公小鹿ジュンの、決してあきらめない姿に励まされ、家族の反対を振り切り、三度目の大学受験に挑戦しました

受験の三日前、余という教師から、「こんなに数学の成績が悪くては、逆立ちしたって合格できるはずがない」という言葉に反発心を燃やし、受験当日の朝に数学の公式を丸暗記して試験に臨みました。

数学の試験は、120点満点中79点で大学合格を手にしました。

 

 

大学時代

大学に入学したジャック・マーは、すでに英語の基礎が固まっていたので楽に学業をこなせました。

そこで、大半の時間を学生団体の活動に費やしました。

大学3年生のとき、杭州師範学院の学生会主席に選ばれ、ほどなく、杭州市学生連盟の主席にも選ばれ、大学内で時の人となりました。

1988年、大学を順調に卒業した後は、杭州電子科技大学に教師として配属されました。

この教師時代で人脈と知識を蓄積し、後の企業につながる仲間とも出会いました。

アリババを創業した17人の仲間のうち何人かはジャック・マーの生徒や同僚です。

 

アリババに至るまで

ジャック・マーは、1995年に杭州十大優秀生年の教師の一人に選ばれました。

杭州師範学院の恩師の「5年間は決して大学をやめないように」という教えを守って、5年間教師を務めた後、30歳のときに、学院長に辞表を提出し、「海博翻訳社」という翻訳会社を設立します。

その翌年、地方政府とアメリカ企業の契約トラブルを解決するため、アメリカへ滞在したことがきっかけで、インターネットに出会い、その魅力にとりつかれます。

インターネットに無限の可能性を感じたジャック・マーは、帰国するとすぐ企業広告を掲載する「中国黄頁(イエローページ)」というサイトを立ち上げます。

1997年には、インターネット事業の売上は700万元に達しました。

その後、中国でインターネットが盛んになり始め、外資系企業や杭州電信など、多くのライバル企業が現れました。

資金が潤沢なライバル企業に対し、苦戦を強いられたジャック・マーは杭州電信との提携を決めます。

提携からまもなく双方との意見が起こり、ジャック・マーと杭州電信は、多くの問題でもめることになりました。

息苦しさを覚えたジャック・マーは辞職を決意し、中国黄頁を離れました。

当時の中国市場はまさにインターネットの花盛りで、新浪と捜狐(ソーフー)が競い合い、その他のインターネット企業も次々と生まれていました。

ジャック・マーは、さまざまな交易会で、アマゾンやイーベイなどの電子商取引企業について欧米人から聞いており、アジアにも自分たちのための成熟した電子商取引モデルが必要だと考えていました。

その電子商取引モデルは、大企業向けではなく、中小企業向けのサービスでした。

中小企業には大企業のように宣伝広告に資金を投じる力はないため、大企業以上にインターネットを必要としているはずだと、ジャック・マーは考えていました。

インターネットでなら、中小企業でも多くの注目を集められ、費用も安く抑えられる、というわけです。

ジャック・マーは、北京の政府系インターネット関連機関での勤務を経て、1999年に杭州で電子商取引サイト「アリババ」を立ち上げます。

 

アリババのその後

最初はB2B(企業間取引)サイトの「アリババ」から始まり、2003年にはネットオークションの「タオバオ」とそれらを支える決済システムの「アリペイ」を世に送り出し、中国の電子商取引界のけん引役となりました。

 

2005年には、米ヤフーからヤフーチャイナを買収。

その後も2011年にはB2C(企業から消費者への販売)メインの「淘宝商城(現「天猫(Tモール)」)」を始め、こちらも快進撃を続けています。

 

 

また、業務内容を広げるだけでなく、2012年にはアメリカのヤフーから自社株を買い戻し経営基盤もしっかりと固めています。

そして、ジャック・マーは、2013年にはアリババグループのCEOを退きました。

さて、アリババグループの業績にも触れておきましょう。

2014年7月~9月月度の売上は、168億2900万元。

日本円にすると3000億円前後になります。

2014年11月11日には「シングルデー(独身者のお祭り)」セールス」を繰り広げ、1日の取引額が1兆円を超えたことは大きな話題になりました。

 

 

1999年8月 アリババネットワーク技術有限公司を杭州に設立

2001年1月 ソフトバンクがアリババに2000万ドル投資

2001年12月 登録会員数が100万人を突破

2002年10月 日本市場に全面進出

2003年5月 完全無料の中国C2Cサイト、タオバオ設立

2003年10月 第三者支払機関、アリペイ(支付宝)を設立

2004年2月 中国インターネット史上最高額の国際的投資を得る

2005年4月 タオバオの2005年第一四半期の取引額が10億元を突破し、国内C2Cサイトでトップに

2005年8月 アリババがヤフーチャイナから10億ドルの投資を得る

2007年1月 アリババグループが上海においてアリババソフトウェア有限公司設立を発表

2007年7月 タオバオの2007年上半期の総取引額が157億元を突破。

2007年8月 アリペイ海外全面進出

2007年11月 アリババインターネット有限公司が香港証券取引所に上場

2009年9月 クラウドコンピューティングの「アリクラウド」設立

2011年6月 B2Cサイト「淘宝商城(2012年3月に「天猫(Tモール)」に改称)」開設

2013年5月 ジャック・マーCEO辞任。

2014年9月 ニューヨーク証券取引所に上場

2019年11月 アリババグループが香港証券取引所に上場

 

受賞歴

2000年 アメリカ アジアビジネス協会 ビジネスリーダー賞

2005年 2004年度中央電視台ビジネスパーソン

2005年 世界経済フォーラム「全世界未来のビジネスリーダー100」

2005年 アリババが「2005年CCTV中国年度雇用主調査」で最優秀雇用主に選ばれる

2006年 中国で最も影響力のあるビジネスリーダー25位

2006年 米誌「ビジネス2.0」の世界で最も影響力のあるビジネスマンベスト50に中国大陸から唯一ジャック・マーがランクイン

 

ポイント!

・中国の起業家で初めてフォーブス誌に名前が掲載された富豪。

・中学・高校と進学校ではなく、本人も優秀な成績ではなかった。

・大学は英語科卒業。卒業後、大学で講師として英語、国際貿易を教える。

・大学講師を退職後、翻訳会社を設立。

・1995年、アメリカで出会ったインターネットにヒントを得て、中国初のビジネス情報発信サイトを開設する。

・1999年に杭州で中小企業向け電子商取引サイト「アリババ」を立ち上げる。

・他、オークションサイト「タオバオ」やB2Cサイト「天猫」、電子決済サービス「アリペイ」を立ち上げ、中国の電子商取引界のけん引役となる。

 

ジャック・マーって何をした人?

ジャック・マーは、偶然に出会ったコンピュータという存在により、インターネットというものを知り、ビジネスを始めました。

そして、中国のビジネス用サイト「中国黄頁」を作りました。

1997年には、インターネット事業の売上は700万元に達しました。

彼自身は全くのコンピュータ音痴でありながら、中国電子商取引の神話を作りました。

そして、アリババの電子商取引を始めて、タオバオへ。

B2B(企業間取引)からC2C(消費者間取引)へ。

世界中から称賛を受け、「中国のビル・ゲイツ」とも言われました。

今や(2020年度)アリババグループは全マーチャントの流通総額が7兆53億元(約106兆円)に達し、年商5,000億元(約7兆5,000億円)を上回る巨大企業に成長しています。

その礎を築いたのがジャック・マーです。

 

ジャック・マーの経営理念

しかし、ジャック・マーの凄さは、その稼ぎ出した金額だけでは計れません。

彼の一番の凄さは、強烈な使命感を持ち続けていることでしょう。

 

ジャック・マーの使命感

その使命感は至ってシンプルで、

 

・世界中のあらゆる商売をやりやすくする

・中小会社(企業)を助ける

 

という2つです。

アリババのすべての施策、戦略にこの二つの使命感が息づいているのです。

たとえば、オンラインゲームブームの始まりの頃、多くの人にアリババもオンラインゲームをやれば儲かるのに、と勧められたそうです。

ですが、ジャック・マーはこう言います。

「オンラインゲームは中小会社(企業)のビジネスの助けになりません」。

また、ゲームに関しては自分の子供がゲームをするのはいやだとも言っています。

だから自分たちはオンラインゲームに進出することはないというのです。

めざとい商売人でありながら、自分の本分や信条と合わない分野には手を出さない。

この潔さがジャック・マーの魅力であり、アリババの歴的成長の秘密であると思われます。

また、アリババの成功の秘密は中小会社(企業)に的を絞ったことだと言われていますが、ここにも彼の使命感が表れています。

なぜ、ジャック・マーは大会社(企業)ではなく、中小会社(企業)をターゲットとしたのでしょう。

それは、アジアを見据えていたからです。

ジャック・マーは1999年、アリババを立ち上げる直前にシンガポールで行われたアジア電子商取引大会に招待されます。

しかし、「アジア」を銘打っているのに、出てくる事例やスピーカーは欧米の会社(企業)ばかり。

そこで、ジャック・マーは真の意味でのアジアの電子商取引を構築するべきだと考えます。

アジアには中小会社(企業)が多く、彼らの立場は弱いものでした。

輸出中心の産業構造なのに、アジアの中小会社(企業)には海外に販売拠点を持ったり、宣伝を打ったりするだけの力がありません。

ジャック・マーは彼らの手助けをすることを自分たちの使命だと考えました。

もちろん、世界の会社(企業)のうち85%が中小会社(企業)なのですから、それらをターゲットにした方が市場が大きいという戦略的判断もあったことでしょう。

ともあれ、アリババは「中小会社(企業)の商売の手伝いをする」ということを自分たちの使命とします。

そして、中小会社(企業)のために、宣伝ツールとなり、決済システムを提供し、自らも大きく成長していきます。創業者の使命は、今もアリババに引き継がれています。

 

ジャック・マーの価値観

ジャック・マーはアリババを経営していく上で使命感とともに価値観も重要視しています。

ジャック・マーは、武侠小説(中国の時代小説の一分野。義理を重んじ武術に長けた人物を描く小説)のファンなのですが、アリババの企業としての価値観を6つにまとめ「六脈神剣」と言っています。

その内容は、顧客第一、変化を受け入れる、一致団結、情熱を持ち続ける、誠実さを大事にする、職務へ打ち込む、というものです。

これは、単に会社(企業)活動として大事なことというのではなく、人生全般における価値基準でもあると思われます。

仲間を大切にし、変化に対応して、誠実に、情熱をもって人生を送ることは、どのような立場の人間にとっても価値のあることなのです。

今でこそ、成功した人物として称賛されるジャック・マーですが、アリババを起業する当時の世間からの評判は「クレイジー」、「大風呂敷を広げる」といったものが中心で、どちらかと言えば変人扱いでした。

なぜ、そのような評判だったのかというと、ジャック・マーの発想が一般人とはまったく異なるからです。

普通の人ならライバルがいない状態を好ましいと思うのですが、ジャック・マーはライバル不在を最大の危機だととらえます。

今まで、アリババの危機宣言をしたのも、傍目から見ると順風満帆ともいえる時期でした。

過去は彼の言動はただの「変わり者」としか見られませんでしたが、今にしてみると、それは、ジャック・マーが常に、創業102年後のアリババを見ていたためだと思われます。

その場の浮き沈みで一喜一憂するのではなく、自分たちにとって正しい方向へ舵取りしていくにはどうすればいいかを考え発言し、行動しているため、突飛とも思える行動に出るのでしょう。

 

ポイント!

・使命感「世界中のあらゆる商売をやりやすくする」と「中小会社(企業)を助ける」。

・価値観「六脈神剣」(顧客第一、変化を受け入れる、一致団結、情熱を持ち続ける、誠実さを大事にする、職務へ打ち込む)。

 

ジャック・マーの言葉

ジャック・マーはスピーチの上手さにも定評があります。

中国では、ジャック・マーの演説集や語録が多く出版されています。

ここでは一つ紹介しましょう。

 

「世界インターネット大会」での公演(2014年11月・浙江省鳥鎮)より。

 

①アリババは幸運な会社(企業)だ

ジャック・マーはこの日の講演で、アリババを幸運な会社(企業)だと言っています。

では、その幸運はどこから来たのでしょうか。

この日の講演では、ジャック・マーは、何万という起業家が幸運を運んでくれたと言っていますが、アリババ上場時の社内向けスピーチでは、さらに踏み込んで、「アリババの幸運は、顧客、インターネット、中国という国、そして、社員それぞれの努力から来ている」と語っています。

まさに、時代の波に乗ったこと、それがアリババ最大の幸運だといえましょう。

 

②失敗から学べ

ジャック・マーはMBAについても独特の考えをもっています。

 

「よく、アリババ大成功の秘密について、いろいろと言われていますが、もし、中国黄頁(ジャック・マーが最初に立ち上げた企業広告サイト)や、対外経済貿易部での経験、そして、数えきれないほどの失敗がなければ、今日のわれわれはなかったでしょう。

すべての大木の下には莫大な栄養が眠っています。

その栄養は、多くの人の過ちから来るのです。私は、MBAを持っている人たちと、われわれ商売人の違いはここにあると思います。

多くの人は、MBA取得後、起業するのが難しいか、あるいは、起業家になっても成功しません。

MBAの課程で学ぶ主なことは、成功する方法です。

ですから、研究事例の多くは他の人がいかに成功したか、です。

しかし、成功例を学ぶと人は夢を見てしまい、自分にもできる、と考えてしますのです。

しかし、私がこの10数年間の起業経験から学んだ最大のことは、他人の失敗の原因、そして、人が必ず犯してしまう失敗というものを考え続けろ、ということです。

なぜなら、成功するための要因は多く、それを学ぶことはできません。

ちょうどいい人に出会ったとか、運が良かったとか・・・。

しかし、失敗はそうではありません。多くの企業が失敗する理由は同じようなものです。それを良く学べば失敗は避けられます。」

 

③3Wを心がけよ

ジャック・マーは、商売をする際には、次の三つのWin(勝ち)を考えろと言います。

第一は顧客の勝利。

まず、顧客を成功させることです。

そして、第二にパートナーの勝利。

そして、自分の勝利です。

この3つのうち、どの一つが欠けても、成功することはできません。

 

④データテクノロジーの時代に対応せよ

今まではITの時代だったが、今後はDTすなわちデータテクノロジーの時代と言っています。

まず、自分中心から他人中心へ。

ジャック・マーは、「利他主義」という言葉を使っています。

そして、第二が「体験」ということの重要性があがる、ということです。

体験の重要性があがるということは、IQ(知能指数)よりEQ(心の知能指数)が必要になってくるということです。

ジャック・マーは、スピーチの中で面白い例を挙げています。

例えば、レストランの入り口で20人のウエイトレスがずらっと並んで「いらっしゃいませ」と言ってくれてもうれしくも何ともありません。

それよりも気分が良くなるサービスが必要なのだということです。

そして、そのような形より心のサービスが重要視されるような時代が来ると女性の力が今よりも重要になってくると言うのです。

そして、三つ目は透明度が上がる、ということです。データとインターネットにより何事も隠すことができなくなり、社会の透明性は上がります。

 

ジャック・マーから学ぶこと

上記の三つの変化とアリババの施策を対比してみると、創業期から今起こるべき変化を見据えてきたように思えます。

この日の講演中でも、ジャック・マーは、

「今日しか見えていないものは今日の商売しかできない。10年以上先が見えている者は10年以上先の商売ができる」

と言っています。

この変化に合わせていくと、「利他主義」は「まず中小企業(顧客)を儲けさせよう」という会社(企業)理念に合っていますし、EQの時代には、女性管理職率36%というアリババの女性活用体制が合致しています。

このように考えると、アリババの今の成功は当然なのかもしれません。

また、このときにインターネット大会で、ジャック・マーは今後気になるビジネスチャンスについても触れています。

今後のキーワードは、健康と娯楽だそうです。

そのため、ビジネスとしては、医療、スポーツ、映画にチャンスがある、ということです。

また、この講演で、ジャック・マーは、「アリババが、今日もっとも感動し、喜びを感じているのは、われわれが未来の会社(企業)を作ることに関わっていることです」という象徴的な言葉を残しています。

金銭ではなく、時代を作ること。そして、他人の幸せに関与することが重要だと考えていることがこの一言で分かります。

このように、時代を読み解き、未来を見据えてアリババを大きくしてきたジャック・マーですが、その戦略の礎となるのは、彼の思索の深さだと思います。

目に見えるビジネスモデルの優秀さ、実行力の高さの根本にあるのは、このような高い志です。

理想と使命と正義を貫く生き方は決して楽なものではないでしょうが、それを貫いて15年で世界を変えた実例をジャック・マーは私たちに見せてくれています